ゲーム的状況とは複数意見の対立状態です。セルサイドvsバイサイドという大きな対立構造の中に、セルサイド内部、バイサイド内部にて複数意見の対立状態が発生します。このような状況は、M&Aディールを経験した人と、経験していない人では、イメージの共有が難しいのも事実です。そこで、私が実際の経験を共有したいと思います。
M&Aは本社主導で行われます。本社は、グローバルベースで海外現地法人の最適化のため、経営判断をします。しかし、一方的に売却が決定された現地法人の「日本人出向者」の気持ちは複雑です。このようにして、ヒトのココロの問題が発生します。
本社の経営陣のココロ 「社員は会社のために、最適なM&A戦略を徹底的に考えてくれるだろう。」
現地法人の日本人出向者のココロ 「自分の居場所はどうなるのだろう?もし解雇されるならディールを妨げよう。」
「日本人出向者」の関心が“自分事”であるのは人の理というもの。経営陣と出向者の間に、ゲーム的状況が発生するのも自明のことです。
もちろん、本社も現地法人の意向を無視しているわけではありません。その海外拠点を担当する取締役が、現地法人の首長に対して本社の方針をキチンと伝えていることは大前提です。しかし、実務担当者レベルでは、このようなコンフリクトは当たり前のように発生します。したがって、本社サイドの意向を受けたM&A実務推進者は、現地法人の協力を得ながら、ディールを推進する問題解決能力が求められるのです。
まとめ:ゲーム的状況での行動と対策
1.追い詰められた人のココロが引き起こす行動とは?
主たるプレイヤーたる実務家は、それぞれ自身の利益最大化に基づいた行動をとる。
経営陣に対して、表立って「反対」とは絶対に言わない。むしろクロージング(調印式)に向けて、盛大に成功させようとする。
一方で、統合準備に関しては「推進しているふり」をする。
経営陣への業務報告は、面従腹背で煙に巻き「その時」が来るのを待つ。
クロージング後に現場実務の統合失敗が露呈して、経営陣が責任を取り失脚する「その時」が訪れる。
2.経営陣は「ヒトのココロ」対策の重要性を認識する
本社経営陣が「徹底的に考えよ!」と部下に指示している場面をたくさん見てきました。しかし、現場に精通した実務家が、自らの不利益を顧みずに犠牲となり、会社に貢献してくれるものと考えているのなら、それは滑稽に思いました。
また、本社が反対派を制御するために、投資銀行やコンサル会社に丸投げするケースもたくさん見てきました。しかし、彼らとしても、決して社内人材のココロまでは面倒をみてくれないのです。
経営陣には善管注意義務があり、経営陣の責でM&A推進すること、会社内部の問題であること、そしてそれを忘れると最後には経営陣にしっぺ返しがあることを認識する必要があります。
Comments