top of page
検索
執筆者の写真Digital-leap

ゲーム的状況がM&A失敗の原因

 第一章:既成事実化せよ!


M&Aは「株主に報告すべき重要事項」です。

取締役会は善管注意義務に基づき、検討段階でも株主報告する必要があります。しかし、被買収会社の株価が上がってしまうため、現実的ではありません。


そのため実務では、1stLOI⇒2ndLOI⇒MOU⇒SPAのような順序で徐々にIR開示しながら、本社特命チームが水面下にて急ピッチで短期決戦での交渉をすすめます。


この時、本社特命チームの実務担当社員には厳しい守秘義務が課せられます。家族にさえそれを守ることを誓約書で念押しされるほどです。


しかし、世間の関心を集めるような大きな買収案件になると、必ずと言っていいほど「内部リーク」が発生します。実は、「文春砲」が生まれる10年以上も前から、M&Aの世界では、そういう仕組みができていました。

有名企業の取締役クラスともなると、様々なメディアでインタビューで取り上げられます。こうやって、番付記者との接点が生まれます。もちろん、通常営業時でしたら何の問題もありません。


しかし、M&Aという有事になると、推進派vs反対派の社内対立が発生し、自陣に有利な世論を形成するために「内部リーク」が発生します。推進派は既成事実化を狙い、反対派は一般社員が危惧する声を集め世論に訴えかけます。


これらのリーク合戦は、M&A実務担当者の「遥か頭上」で繰り広げられるため、実務担当者は意外にもリークされた記事内容から、現状を推察するしかありません。(間違っても、リークしたであろう本人に現況を伺うことなどできません!)


このようにM&A実務担当者は、社内対立の状況を見極め、優勢な取締役の意向に「忖度」しながら対外交渉を進めるという極めて高度な問題解決能力が求められます。M&Aが「知的な格闘技」と言われる理由です。



 第二章:法律用語の善意と悪意の人



日常的に用いる「善意」と「悪意」。実は、法律用語になると、意味合いが異なります。

  • 法律用語の善意は「知らない」

  • 法律用語の悪意は「知っている」

という客観性のみを争点とします。


一般名詞で使われる悪意には「故意性」という主観的要素が多分に含まれるので大きく異なります。つまり、法律上の悪意には、その情報取得における故意性の有り無しという主観は排除されるのです。


記憶に残っているのは、「村上ファンド」、「STAP細胞」の一連の報道でのことー

この時、「法律上の善意と悪意」という概念が多く使われました。


そういう私も、この概念について実感としてわかっていませんでした。しかし、M&Aディールを重ねるうちに、この概念の奥深さがわかってきました。


不成功に終わることが予見できるM&Aディール推進を指示されたとき、心は揺れ動きます。果たして推進して良いものか、一般社員が分を超えて止めるべきか。


結局、自分の心とは裏腹に、指示されたのだからしょうがないと粛々と推進している自分がいます。これはまさに、法律上の「悪意の人」そのものです。


自分の本心もわからないのに、他人のココロの深層など、誰もわかるはずがありません。それを客観的なルール化するために必要だったのが「法律上の善意と悪意」という概念だったのです。法律用語は、本当に奥が深いことに気づかされました。


M&Aは、魑魅魍魎の世界です。

会社のため、所属部署のため、上司のため、自分の昇進のため、ライバルを陥れるため、、、ヒトのココロは様々な思惑が錯綜します。


ちなみに、ゲーム理論では「複数人のゲーム的状況」と呼び、ナッシュ均衡解はそのようなゲーム的状況の最適解を導く定量学的アプローチとして研究されています。



 第三章:奥義!のれん減損トラップ!


皆様の会社には、「財務部」はありますか?

「経理部」がない会社はありませんが、「財務部」がない会社はたくさんあります。実は、この「財務部」が、M&A社内交渉にゲーム的状況を招く一因です。


会計には、「管理会計」と「財務会計」の2つの機能があります。

  • 「管理会計」=経営者による経営管理を目的とした「社内向け会計」

  • 「財務会計」=財務情報を市場や投資家に伝えるための「社外向け会計」

ここに「経営企画部」、「経理部」、「財務部」という3つの部門が関与すると、どうなるでしょう?必然的に3つの部門による2つの機能の「良いとこどり」を招き、ゲーム的状況を生み出します。


M&A実務を誰が推進するかがポイントです。

まず、取締役会に近い経営企画部がイニシアティブを握ります。

次いで、価値評価など定量的分析に強い財務部がM&Aサポーターになります。こうやって「華やかな仕事」は、経営企画部と財務部に奪われてしまうのです。


残された経理は、財務諸表や決算公告、監査法人対応など、地味ですが「縁の下の力持ち」として会社を支えます。


一般的に「財務部」がある会社は、

・事業部事業計画(単独)は「経営企画+経理部」

・M&Aと事業計画(連結)は「経営企画+財務部」

という構図で落ち着きます。そして、この機能分担の業際(業と業の際)に潜む責任所在の曖昧さが、社内コンフリクトを招きます。


M&Aが結婚ならば、結婚式と結婚生活を維持することは、一連の出来事であるはず。しかし、経営企画部と財務部は、投資銀行から日々持ち込まれる案件(お見合い写真)に注力し、たとえディールクロージング(結婚式)まで進んでも、経営統合(結婚生活の維持)は、事業部と経理部にお任せとなり、また次のお見合い写真の検討に励むのです。まるでM&A中毒のように。。


このようにクロージング前後での人的責任の断絶は、M&Aを失敗させる大きな要因です。あなたの会社は、M&A中毒に陥っていませんか?

Comments


bottom of page